仮面夫婦

□六 出会い
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(大体、崖って何処だよ)


 一本道だった筈だが、暗い所為で見えなかったのかもしれない。
 濃い少年と別れてから大分経ったけれど、一向に先は途切れない。


(雨も降りそうだし……)


 これでは花火も見れるか如何か……


 溜め息を吐き、それでも前へ進む。

 だが頬に冷たい水滴が当たると、流石に苛々とした。
 ゆっくりと、だが確実に雨足は強まる。


(花火……見れないか)


 最悪だ。
 もう町へ戻りたいが、多分既に迷っている。
 気がする。

 水を吸って重くなる髪を掻き上げ、泥を踏みながら進む。

 そうしてすっかり水浸しの泥だらけになった頃漸く雨が弱くなり始め、パラパラとまばらになった。
 月は雲に隠れ、ぼやけて見える。
 花火は上がらない。


(……骨折り損のくたびれ儲けだな)


 花火を見れないだろうと思った途端、足が重くなった。
 寒さを感じ、ぶるりと震える。


(あ)


 其所で漸く、やっと、洞窟らしき物が見えた。 
崖には出なかったので、やはり迷った様だ。


(……雨宿りにはなるか)


 洞窟へ向かい、歩を進める。
 暗い洞窟、──その入り口に


(……誰かいる……?)


 目を細めた瞬間、月明かりに浮かぶ人物がテマリに気付いた。


「誰だ」


(……男か)


 声でそう判断する。
 長い髪が見えたので、女かと思った。


「……お前こそ誰だよ」


 反対に問い返せば、相手は如何やら眉宇を顰めた様だ。
 森に立つテマリの姿を相手はっきりと確認出来ないらしい。

 一歩踏み出して洞窟へ向かうテマリを月明かりが照らす。
 そうして現れたテマリに、少年は驚き目を瞠った。


「……女……?」


 その呟きにムッと顔を顰めた。
 何だと思ったのだ。



──出会うべくして出会った少年と少女の間に、沈黙が落ちた。









END
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