仮面夫婦
□六 出会い
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(何でアレの売り上げが落ちないんだ……)
『命のカレー』を一口食し、余りの辛さに痺れと痙攣を経験した事のあるネジは思う。
しかし完食出来ないカレーライスに興味を持つ者は大勢いる。
あのゴポゴポと沸騰したルー、入れられる調味料、黒々しい──アレは食べ物じゃない、兵器だ。
うっ……と辛さを思い出し口許を押さえる。
その理由が理解出来ないリーは早くも町へ戻る体勢だ。
「ネジ、君は先に行っていて下さい! ボクは先生の熱い手伝いをしてから急いで行きます!」
「ああ……分かった」
頷けば、リーは奇声を発しながら土煙を巻き走って行った。
ネジは溜め息を吐き、再び歩き出したのだった。
土煙を巻き上げ町へ向かう途中、峠の角を曲がろうとし──ドンッと人とぶつかった。
「わっ」
倒れかけた相手を慌てて支える。
「あ! すみません、大丈夫ですか!?」
「ああ……平気だ」
頷き自分で立つ少女に手を貸し、そして驚き目を瞠る。
此処らでは滅多に見ない亜麻色の髪、日に焼けていない肌、長い髪──貴族だろうか。
黙るリーに、少女が訝しげに眉宇を顰めた。
それから思い出したように尋ねる。
「なあ、花火を見る穴場を知らないか?」
「穴場……ですか? それなら、此処を曲がって真っ直ぐ行けば、崖に出ます。其所を右へ行けば洞窟が見えるので、その近くが穴場ですよ」
「そうか、ありがとう」
ぺこりと頭を下げて示した方向へ行く少女を少し見つめ、それからハッと約束を思い出し走り出した。
「うぉおおー!! 青っ春っだぁー!!」
それから漸く到着して早々、幼馴染みの少女に
「亜麻色の長い髪の年上の女の人見なかった!!?」
と鬼々迫る顔で揺さぶられ、結局森へ逆戻りしたのだった。
夜空をチラチラと見上げながら、暗い森道を歩く。
月と星の輝きだけが頼りの道は、葉の擦れる音や時折感じる生き物の気配が恐ろしい。
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