海賊
□死を招く声
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「なぁ、サンジ・・・俺のこと好き?」
いきなりの愛しい人からの質問。勿論俺は二つで答えを出した。
「あぁ」
愛しい人は嬉しげにそれでいて寂しげに笑った。
「じゃあさ、俺を殺して」
「はぁ?」
こいつは今、何て言ったんだ?『殺して』・・・だと?冗談も程々に言えってんだ!こいつは俺を馬鹿にしてるのか?俺にお前を殺せる筈が無いのを判って言ってるのか?
「なぁ・・・サンジ・・・俺はお前が思ってるほどよわかねぇ」
「・・・」
何を言っている。そんなこと身をもって判ってるつもりだ。
「それで、お前は弱いゆ。サンジ」
「あぁ?んだと?」
俺がよぇだと?!オロスぞクソゴム!俺はお前の事を護れるぐらいに強い!!
いや、そんなもんじゃねぇ!クソゴムに勝てる!俺は全然よわくねぇ!!
「なぁ、サンジ。だから俺を殺して」
「何言ってんだ?クソゴム」
真剣な目をして俺を見るな。そんな声で俺に言うな。そんな言葉をお前の口から聴きたくねぇよ。
大体何でそんな話になったんだ?俺を試してんのか?
「何でそんなこと言うんだよ・・・俺がお前を殺せる訳ねぇだろ!」
「・・・サンジ」
「もう金輪際殺せとか言うな!」
「・・・サンジ。聴いてもらはなくちゃ駄目だ」
「――っ・・・何でだよ・・・。なんでっ・・」
こいつはこれ以上俺に狂えと言うのか?狂ってしまえと・・・言ってるのか?
それがお前の望みなのか?・・・はっ。上等!それがお前の命令なら従ってやろうじゃねぇか!
「サンジ。俺はお前を殺してる。だからお前も俺を殺して」
・・・はぁ?身構えていた俺に予想もしない言葉が返ってきた。
お前が俺を殺してる・・・?え?えぇ?えええ?俺いつ死んだっけ?
訳が判らない様にしている俺に構わず、ルフィは話を続けた。
「お前は俺に命授けてるだろう?だから俺はお前を殺してるんだ。」
「・・・」
「俺は・・・サンジに命を預けても、授けてはいない。でも・・・でも・・・・・・本当にサンジの事好きだ。仲間として、恋人として。だから・・・サンジ、俺を殺して」
・・・ははっ。そういうことかよ。
「どーだっていいよそんなこと。」
「サンジ!」
「お前さぁ、オールブルーって知ってるか?」
「!!!?」
「それを見付けるのが俺の夢だ。後一つ、夢があるのを知ってたか?」
「???」
「それはな、ルフィ。お前を俺のもんにすることだ。」
「!!!」
「だがな、ルフィ。夢を叶えた後は何が残ると思う?手に入れた優越感と果てしない喪失感。手に入れるまでが楽しいんだよ。簡単に手に入るもんなら俺はお前を好きになっちゃいねぇ」
「サンジ・・・」
「俺がお前を殺せるのは俺が死ぬ時だけだな。」
こいつは命を懸けないと手に入らない男だ。 そんなこたぁ判ってる。それを百も承知で付き合ってんだ。
「好きだよ。ルフィ」
「うん。・・・うん」
いつの間にかルフィは泣いていた。それでも拭うことなく俺を、俺だけを一心に見ていた。
「それに、俺は殺されちゃいねぇ。きちんと生きてるよ。おめぇの中でな。」
「サンジィィ」
ルフィは走っていた。己の仕打ちを許してくれる唯一の人に。自分を愛しく思ってくれる人に。自分が愛しいと思ってる人に。その人の胸に。
「俺はお前が思っている以上に強いよ」
「――っ・・うん!・・・うん!」
それは死をも無とする声。
それは死をも招く声。
それでもついて行くと決めたあの日から、俺は生きることすら、死ぬ事すら怖くは無い。
それは全部゙無"と変えてしまうから。
END