先生の特別授業

□わたしとあなた
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……夜。

「ん〜…!」
ランプの灯りが燈る部屋で私は大きく伸びをした。
「これで明日の授業の準備は終わりですね…」
明日の教材を整理して、机から離れる。
開けていた窓からは涼しげな風が入ってきている。
外の天気はよく、月も綺麗に顔を出している。
私はゆっくり窓に近づき、もう一度伸びをする。
「んー…夜の風ってどうしてこんなに気持ちいいんですかね」
窓から体を出し、直接体に夜の風を感じる。海も近いため潮の匂いも心地よい。

ここは海の近くの高台にある一軒家。
カイル海賊一家と生徒が旅立ってから住む場所が必要になったので、島民に手伝ってもらって建てた家。
ミスミ様やヤッファが住む場所を提供すると言った時も、
「ごめんなさい…気持ちは嬉しいんですけど、海の見える場所に家を建てたいんです」
と言って断った。
断った時は申し訳なかったが、自分のこだわりでもあった。
船での生活で、海の見える生活が気に入っていた。
それに高台にしたのも、船から見える景色と一緒で海を見下ろす眺めにしたかったから。
でも…本当の理由は…


私の大好きな「彼」と一緒に見た風景をいつでも見られるように…


「彼」は元々、軍人としてこの島にやってきた。
私が不意に手にした、不思議な力を持つ剣「碧の賢帝」を取り返すために…
でも今は軍を辞め、この島にいる。
軍が任務から解放され、この島を発つ時「彼」だけ残ったのだ。
隊長であり、私達の同期であるアズリアには以前から話していたらしい。

「彼」は…優しすぎるから…

「彼」は結局、
「俺は軍人に向かないよ」
と言って、辞めたらしい。
後で話してくれた事だけど、
「軍人に向いてないのもそうだけど…君のそばにいたいから…なんて言ったらアズリアに殺されるからね…」
と苦笑いしながら言っていた。


嬉しかった。


私の大好きな彼が、ここに残ってくれている事。

私の事を忘れないでいてくれた事。

何より…


私と同じ気持ちだった事…


今は、「彼」とこの家で一緒に暮らしている。
「彼」は今、私と一緒に先生をしてくれている。
以前は敵だったけど、温厚で優しく働き者な「彼」は島民にすぐ受け入れられ、今では色んな所に引っ張りだこ。
生徒達にも人気があり、よく学校が終わった後遊びに行ったりする。
私が少し寂しそうに見てると、それを察してくれて、必ず一緒に行こうって誘ってくれる。
私は嬉しくて、結局見てるだけなのについていってしまう。
私の目は、「彼」を無意識に追っている。


いつも…常に…


コン、コン。
ふいに控えめなノック音が部屋に響く。
「!」
ぼーっとしていたせいか、予想以上に驚いてしまった。足を滑らせ転びそうになる。
「は、はい!」
慌てて返事をすると、外から声が聞こえてきた。


私の大好きな「彼」の声。


その声をぐっと胸に抱き、私は、自分の中で最高と思える笑顔で「彼」を招き入れる。


「どうぞ、入ってください」


「彼」もそれに応え、いつもの私の大好きな笑顔を見せてくれる。



私達はいつまでも一緒に……。






                         
終(続くかも…)   

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