観夢室
□楽園
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父を亡くし、病に倒れた母の変わりに、この家は私が守ってきた。
手伝ってくれている人達は居るけれど、所詮お金のやり取りで成り立っている関係…
そんな今に、少しづつ絶望感を感じている…
助けて欲しいと何度願ったか…
しかし、この歳で神様なんて信じるわけもなく、戦うのは自分なんだと言い聞かせてきた。
なのに…なぜ…
自分の血…どこから流れてきたのか分かるはずがない。
そんな事は考えなくても、生きていけるはずなのに…
行き場のない想いが私を襲う。
「社長…大丈夫ですか?後は僕がやりますから…」
いつもなら軽く返す所だが、今日はこの男の言葉がやけに胸に響く。
「大丈夫。ありがとう…」
私は差し出されたコーヒーに口を付け、仕事を続けた。
よく考えると「ありがとう」と言うのは凄く久しぶりな気がする…
男が驚いた顔をしていたので、おかしくて笑ってしまった。
「お父様が亡くなって以来の笑顔ですね…」
優しい笑顔で私を見つめていたので、笑っていなかった事よりも男の笑顔に驚きを感じた。
「それでは、また何かありましたらお呼び下さい。」
男が出て行った後、なぜこんな関係になってしまったのか…と瞳を閉じた。