東雲日記
□わくらば断章
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蛍の君
とある夏の宵
二人して白川のほとり
漫ろ歩きしたる折に
「あな
いみじう美し」
と人の呟くに
振り返りて
うち見守れば
薄墨流したる夕闇に
青白く淡き光
ひとつふたつ
風に弄ばれて
漂ふありけり。
人の手を差し出だせば
吸ひ寄せられたるがに
その掌にひとつ
ふわりと舞ひ降りにければ。
その人の
手のやはらかさ
知る蛍
未だ触れざる
我差し置きて
緑眼の魔物の為せる業にや。虫を敵に妬しと思ふ心ばせ我ながらあやしうこそおかしけれ。
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