詩小説

□左足
2ページ/2ページ


月日は流れ
ふと入った
街のメガネ屋で
偶然君に再会した。
失語症だった同級生の
今は朗らかに
喋れるようになった
お嫁さんと
彼女に抱かれた
生まれたばかりの
女の子に
目を細める君は
やはりあの頃と
同じように口元を
逆三角形にして
高らかに笑いながら
しっかり生きていた
街のメガネ屋さんの
立派な主として。

君は左足を
バネにして
全身全霊で
走り続けていたんだ
あの頃からずっと

外に出て
空を見上げると
灰色の雲間から
斜めに射し込む
冬の光の微粒子たちが
淡くキラめいていた。

(完)
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ