詩小説

□ピアノ・ソナタ14番“月光”
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第一楽章

溶けそうな程に
心地良い睡魔に
襲われている。
少し寒く頭痛がする。
でも怖くなんかない。
君がいるから。
これならもっと早く
決断すべきだった。

もっと早く...

微かに
草を踏み分ける様な
音を聞いた気がする。
野生のウサギか何か
だろう。
柔らかく冷たい月光が
僕らを照らす。
でも月は見えない。
うっすらと
霧が立ち込めて
きたようだ。

この安らぎ
この安堵感は
一体何だろう?
今まで経験した事の
ない満ち足りた気持ち
君の魂はまだ
ここにいる。
その気配は
生々しい程に確かだ。
昨日まで
君の顔さえ
知らなかった
と言うのに...


第二楽章

へぇ〜
ピアノ弾けるんだ?

うん
『エリーゼのために』
とか...

なぁ〜んだ。
ショパンとか
じゃないんだ。(^_^;)

なぁ〜んだって
何よ!(-_-#)

他愛のない会話が
楽しくて気がつけば
いつも朝まで喋ってた

僕たちは
2週間前に
ネットで知り合った。

僕は25才。
引き隠って5年あまり
仕事はしていない。

あたしは16。
高校2年生。
だけど
もう半年ちかく
学校へ行ってない。


第三楽章

突然
雷鳴が轟き
激しい雨が白い無数の
槍となって降り注ぐ。

僕はあなた方ふたりの
ロボットじゃない!

あなたは全部ママに
任せてれば大丈夫なの

親のために医者になる
なんて真っ平ごめんだ

僕は高校を中退して
大検を受けた。
絵が描きたかった。
そして美大に合格した
親の裏金の力だとは
知る由もなく。

ある公募展で
僕の作品が金賞を
受賞した。
お祝いの席で
親父のお陰だと
聞かされた。

あれが初めて親を
殴った日
嗚呼...

ボクハ
ボクヲ
壊ソウト
思ッタ


第三楽章
(コーダ)

ふたりが
横たわる車の
ガムテープで
目張りされた
サイドガラスから
月光が忍び込み
車内を照らし出す。
彼女の首筋には
紫色の線条痕が
残されている。

溶けそうな程に
心地良い睡魔に
襲われている。
少し寒く頭痛がする。
でも怖くはない。
君がいるから。
君の魂はまだここに
僕と共にここにいる。

もう..充分だ...
眠ろう...。



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