書庫1

□サンタガール
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夜中に凍える寒さで目が覚めた。
その後も寝付けずに布団の中で蠢いていた。

「・・・・寒い・・・」

口にしてみれば益々寒くなった気がする
その事に後悔し、眠りに着こうと試みてみる・・・


ガタッ・・・

窓が動いた様なそんな物音がしたのに気づいた。

「・・・なに?」

寒さよりも、怖いもの見たさ・・いや、単なる好奇心が先を行く。
布団を出る頃には真冬の冷たい風が部屋に入っていた・・・

「え・・・?」

触れても居ない窓が開いている・・
そして、そこには・・・

「サンタ・・・?」

もう、サンタの存在なんて居ないことは知っている。
それでも・・・目の前に姿を現した赤服を纏った人影・・
それを見れば信じざるを得ない・・・

「メリークリスマス・・」

月明かりに照らされたのは・・黒く髪を靡かせ、綺麗な顔立ちの女性・・・

「・・・サンタ・・なのか?」

彼女は小さく微笑みながら頷いた・・

「一応・・サンタです。えと、野宮・・李樹さんですよね?」

サンタと名乗った彼女は俺の名前を呟きながら窓から部屋へ入り込む。

「あ、あぁ・・そうだけど・・どうして俺の名前・・。」

「詳しくは申し上げられませんが・・・その・・私が野宮さんに就く事になりました。」

モジモジしながらチョンと正座する彼女はとても小柄で・・可愛らしかった。

「俺に・・就く?もう少しでいいから詳しく教えてくれないか?」

少し、困ったような顔をしていたが・・やがて真剣な顔になる。

「先ほど、私の事をサンタですか?と聞かれたとき・・一応と答えましたよね?」

俺は思い出して頷く。

「私は・・サンタ候補生・・なんです。」

初めて聞く単語に戸惑ってしまう。

「サンタになる為には専門の施設でいくつもの課題をクリアしなければなりません。」

彼女の語る拳に力が入る。

「そして・・コレが最終課題・・サンタの実践です。」

俺は頭の中で彼女の話を纏めた。
ようするに・・サンタになるためには専門の施設が出す課題をクリアしてサンタになる。
そして彼女は今回ココへ来ることが最終課題。
コレが出来れば彼女はサンタになれるわけだ。

「なるほどねぇ・・・。」

俺の返答に彼女は目を丸くしていた。

「信じてくれるんですか?」

自分で言った事なのに・・そう思っていた。
でも、考えてみれば信じがたい話しだ。

「信じるよ。夢ぐらい見させてよ。」

口元を手で隠しながら彼女はクスリと笑った。
その光景が・・・不思議で何だか微笑ましかった。

「それで?最終課題って言うのは?」

「あ、ハイ・・それは、野宮さんの願いを叶える事です。」

今までのサンタの常識を覆すセリフだった。
俺の願い・・・?
そう聞かれて、困ってしまった。

「・・・願い、かぁ・・。」

考えれば考える程・・頭の中が真っ白になっていく。

「何でもいいの?」

彼女は頷く。
サンタ候補生と言えどもサンタはサンタなんだと思う。

頭が真っ白くなりすぎた。

「・・・君が欲しい。」

小さく驚く声と頬を紅潮させる彼女は明らかに動揺していた。

「そそそそそ、それはどういう意味で・・・?」

「俺の彼女として・・」


そのまま、「彼女」と呟きながら倒れてしまった・・・

「お、おい!」

その声虚しく彼女には届かなかった・・
倒れた彼女を俺が寝ていた布団に横にさせる。

スヤスヤ眠る彼女の寝顔は・・どんな男をも魅了する程・・可愛かった・・。
その横で俺は開け放した窓から夜空を見上げる・・

クリスマスには似合わない・・綺麗な満月が雲から顔を出していた・・・

寒さもそうだが・・寝る場所が無い。
だけど・・女が横に居るだけで眠れない。

手探りで煙草を探し、一本口に咥える。

「野宮・・・さん・・・」

彼女のほうに目をやると・・半身起こした状態でこちらを見ていた。

「お、起きた?」

煙草に火をつける・・白い煙と白い息が混じりあって空に消える・・

「あの・・・えと・・」

「さっきの話・・無理ならいい。クリスマスだから・・人肌恋しかっただけだったんだ。」

目を瞑り・・彼女の返答を待つ・・

「・・・いいですよ。私が野宮さんの彼女になります・・」

「え・・・?」

思いがけない答えに煙草の灰を落としてしまう。
彼女は真剣な眼差しで・・俺を見つめる。

その曇りの無い表情は月明かりに照らされて・・
白く・・浮き彫りになっていた。

「でも・・条件が・・・あります。私が・・サンタになるまで待って下さい・・・」

「・・・わかった。待ってる。」

そんな簡単に約束してもいいのだろうか・・?

それでも・・・信じてみたくなったんだ・・聖夜のこの出会いに・・・運命を感じて・・。


「・・・それでは・・私は行きますね・・」

「あ、待って!」

窓から帰ろうとする彼女を引き止める。

「君の名前は・・・?」

クスリと笑う彼女は・・・

「私は・・・・」






「・・・はっ!」

眩しい朝の日差しに目を覚ます・・・

「夢・・・?」

記憶に新しい彼女の記憶は・・・まるで現実味の無い正に夢物語だったのだろうか・・・?
それでも最後の方は記憶に無い・・・あの後彼女は何て言ったんだろうか・・・
その時、窓に挟まっている紙に気づく・・・

「これは・・・」

クリスマスらしい装飾が四隅に施されているその紙には『また来年・・・』

それだけ書かれていた。

「夢じゃなかった・・・?」

不意に見た足元には煙草の灰が落ちていた・・・


「・・・夢じゃなかったんだ。」


小さく微笑み、もう一度・・紙を見つめる。

「来年・・か。」

長い一年になりそうだ・・・そう思いながら窓を開け放った・・・・




一年後・・・


アレから君の事を忘れた日は無かった。
毎日毎日・・この日が来るのを待ちわびて・・・

もしかしたら夢だったのかもしれない・・・
あんな願い、本当はダメなのかもしれない・・・

そんな事を幾度と無く考えて過ごしたこの一年・・・

それでも今日と言う日が来た今・・思う事はただ一つ・・・

もう一度・・会いたい。


もうすぐ時計の針は零時を指そうとしていた・・・

コンコン・・・

ガラス窓を叩く音・・・
自然に窓は開き、去年と同じく、そこには黒く髪を靡かせた赤服の女性が立っていた。

「メリークリスマス・・」

「来てくれたんだ・・・。夢じゃなかったんだ。」

舞い散る様な粉雪が光の粒の様に見える・・・
まるで彼女を護るかの様に・・・

「野宮さん・・・私・・サンタになれました。」

「そっか・・!おめでとう。」

彼女は涙を浮かべながら抱きついてきた・・・

「俺へのクリスマスプレゼント・・あるかな?」

涙を拭いながら彼女は・・

「私でも・・いいですか?」


俺は頷き・・抱きしめた・・・。

もしかしたら・・俺は魔法に掛かっていたのかもしれない・・。

この女性に恋をする聖夜の魔法・・・


「好きだよ・・・アリサ・・・」

自然に出てきた名前は・・・彼女の名前・・・
記憶に無くても・・・
耳が・・感覚が覚えていたんだろう・・・

「私も好きです・・・李樹さん・・・」




END

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