書庫1

□クリスマスの奇跡
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12月下旬…もうクリスマスだと言うのに、今年の雪はまだ来ない…。

この数日…毎朝毎晩、外を眺めていたりする…

今もそうだ…友達が呼びに来るついでに眺めている。

「オーイ、八尋ー。」

二階の窓から見下ろすと友人が立っていた。

「オゥ、今行くよ。」

簡単な身支度を整え、部屋を出た。

「お待たせ、友也。」

「遅ぇよ。行くぞ」

そう言って友也は歩きだした。

「なぁ、今日って何のパーティーだっけ?」

「クリスマス。河本先生が俺らだけでパーティーしよーぜー。ってノリ軽いよなぁ、河本先生。ま、だからプライベートでも仲が良いんだけど…」

「そうだなぁ。」

河本先生は俺達の高校の時の先生。卒業して3年、今だに会ったりしている。

「懐かしいよなぁーこの学校…」

校門まで来て友也はしみじみと校舎を眺める。

「もう…3年か…早いよな。」

「そうだな…早いよな…」

カツカツカッ……

「アレ?八尋?友也?」

暗闇の中で名前を呼ばれ、ビクッとしたが、声の持ち主はすぐに姿を表した。

「玲花……?」

そこに居たのは高校の時の親友、玲花だった…

「アンタ達も…パーティー?」

「あ、あぁ。お前も……みたいだな。」

『お前もか?』と言いそうになったが途中で言い換えた…なぜなら酒類を買い込んだ袋を持っていたから…

「玲花、重いだろ?持ってやるよ。」

「ありがと……って、アレ?さっきまで友也居たよね?」

玲花の言葉に辺りを見渡すが、さっきまで居たはずの友也が居なくなっていた

「あ、あんな所に。」

玲花が指差したのは、すでに目的地の校庭の隅にある小屋へ入って行く所だった…

「ったく……俺達も行こうぜ」

酒の入った袋を受け取り、小屋へ向かう。

「ちわーっス……って…何してんだ?友也?」

小屋に入ると友也が玄関で突っ立っていた…

「し、知らない人が居る…」

「知らない人?あぁ…沙也夏さん?あれ、友也…会った事…無い?河本先生の従妹……」

俺の説明は友也には届かなかった…ずっと沙也夏を見つめていた……

『コイツ…惚れたな…』

わかりやすい表情だった…

「おぉ、遅かったな。いらっしゃい。」

奥の部屋から河本先生がいつも通りのスーツで現れた。

「お久しぶりです、先生。」

「堅苦しいのは無しだ!さぁ、飲め!」

いきなりの酒勧めか…変わってないな。と小声で玲花と話し、二人でクスクスと笑ってる間も友也は沙也夏ばかり見つめていた…


――1時間経過――

部屋は大散乱…俺と先生以外は酔いつぶれ床で眠ってしまった…

「はぁ、大して酒強く無い連中ばっかなのに…大量の酒買うから…」

河本先生は一人一人に毛布を掛け、椅子に座る。

「なぁ、八尋…聞いていいか?」

俺はタバコに火を付けながら聞いた…

「沙也夏の事だ…。お前から見て、沙也夏はどう見える?」

「スー……フゥー……。
いきなりですね…そりゃあ沙也夏さんは美人だと思いますけど…俺は昔から一筋の奴居ますから。」

「ふっ…そうだったな…どうなんだ?玲花とは…。」
「今日、久しぶりに会いました。」

「ダメじゃないか。攻めなきゃ…」

「違うんすよ…会っても話す事無くて…高校時代に話し尽くしましたから…」

「なるほどな……友也は?浮いた話し聞かないが…」
一瞬、言うのを躊躇ったが…さっきの先生の質問もあるからと思い、

「あくまでも、俺の考えです。友也、沙也夏さんに惚れましたよ…」

先生は凄く驚き、寝ている友也を何度も見ていた。

「そうか…友也がなぁ……」

「友也には渡したくないですか?」

先生はしばらく黙った後…フッと笑い、

「いや…友也が本気なら俺は何も言わないさ。」 

決めるのは本人…そう言った先生の顔は寂しそうだった…

「そう、ですね……沙也夏さん次第ですね…」

俺は床に転がってる奴らを眺める…すると一人の異変に気付く

「ん……?玲花…起きてるだろ……」

玲花は狸寝入りを続けたが、部屋が無言になり、耐え兼ねたのか、ゆっくり起き上がった。



「いつっ……」

玲花は頭を押さえ、苦痛の表情を浮かべた

「オイ、大丈夫か?」

玲花は大丈夫。と言って近くのお茶を流し込む。

「玲花、お前…いつから起きてたんだ?」

先生がニッコリしながら聞くと、玲花は顔を赤くさせた……

「そっか、正直だな。オイ、八尋。さっきの話し聞かれたぞ」

「……え……?えぇぇ!?」

「だ、だってしょうがないじゃない!八尋があんな事言うなんて…思ってなくて…」

「待て待て!もういい、何も言うな……」

俺と玲花はお互いに顔を赤くして目線を反らした…それを見た先生は……

「八尋、もう時間も時間だ。玲花を送ってやれ。」

「え、あ…はい……じゃあ、支度しろよ。」

玲花は立ち上がり、畳んであったコートを羽織った…
「それじゃあ…先生、また。」

「八尋。頑張れよ」

先生のお節介は苦手だ…いつも、急にくる…

小屋を出た俺達は校庭を歩く……

誰も居ない校庭は…寂し気で…独特の雰囲気を持っていた…

「ねぇ、八尋……」

「んぐ……な、何だ?」

「さっきの話し…ホント?」

「…………あぁ…ホントだ…」

俺はタバコに火を付け、白い息と煙を吐き出した…

「そ、そうなんだ……」

再び無言が続き、一本目のタバコがほとんで灰になった時……玲花は立ち止まった…

「どうした?玲花?」

「私…告白する勇気も無い……だから、八尋を誰かに取られてしまっても…我慢するって思ってた…」

「玲花……」

涙ぐみながら白い息と一緒に出てくる言葉は…一つ一つ…心に響く……

「でも…やっぱり…誰かに取られるのは…嫌だよ……」

ついには泣き出してしまった…

「な、何泣いて……」

「だって勝手に出てくるんだもん……」

玲花の涙は拭っても拭っても…とめどなく溢れていた…

「………。」

指で持っていたタバコを地面に擦りつけ、玲花を抱き寄せた……

「や、八尋……」

「来年のクリスマスは二人でデートだな。付き合って一周年記念も兼ねて……」
「じゃあ……」

目を見開いて玲花は俺を見る

「俺と付き合ってくれるか?昔から好きなんだ。」

「………は、い……」

まるで呼吸困難を思い出す程、玲花の言葉は途切れていた……

「玲花……」

承諾も返事も聞かず俺は唇を奪う……

「っ……」

唇を離した後、玲花は確認するように唇を触っていた
「お前…酒飲み過ぎ。キスがアルコール味って……」
「何よ、ソレ!ひどい!」
握りこぶしを空にかざした

「あっはは悪い悪い。」

「もぅ……」

ゆっくり腕を下ろした

「やっぱ…俺達は笑い合ってなくちゃな。」

「……うん、そうだね…」
二人は以心伝心…と言うのだろうか?
確認も何も無しに…キスをした……

「おっ……雪だ……」

唇を離したのは空から何かが降りて来たのが分かったから…

「やっと…降ったね…」

「ホワイト…クリスマスだな。」

『あ、(玲花)(八尋)』
二人は同時にお互いの名前を呼んだ。

「何?八尋から言ってよ。」

「玲花から……二人同時な言おうぜ。多分、一緒だからさ。」

「…そうね。きっと一緒ね。」

一緒。そんなの理由も何も無い。だけれど合っていると思う……それは多分…色んな気持ちが詰まった宝石を俺達は持っているから……

『いっせーのーで!』

それは12月、クリスマスに起きた奇跡…なのかも知れない……

『メリークリスマス!』


END

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