書庫1
□ガード。
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カーテンを開けると…夏らしい陽射しが部屋を包んだ…。
窓を開けると…海らしい潮風が鼻をくすぐった…
今は…夏…。
この島の人々が開放的になれる季節。
これは…そんな島でのひと夏の恋物語を描いたものである…。
風の様に坂を下る少年が居た…
「ヤッベェ!早くしないと!」
この少年は時斗。高校一年生。…何故、こんなにも走っているかと言うと…時斗の両親が海外へ転勤になったからだ。
その話しも二日前に聞かされたばかり…しかし時斗はココに残ってもいい。と言う話しだった…
「親父!お袋!」
ものの数分で家までたどり着き、両親を呼ぶ。
しかし…返事は無く、部屋も静かだった…
「もう…行ったのか…」
静かになった家を歩く…その時だった…リビングの机に一通の手紙が置いてあるのを見つける
「手紙…?何々…?」
ガサガサと音を出しながら手紙を開いてみる
『時斗へ…両親'Sはもう行きます。今生の別れでは無いので、サヨナラは言いませんでした。お金の事は心配せずとも毎月振り込みますから。あ、そうそう。困った事があれば蛍ちゃんに言いなさいね。それじゃ。』
と、簡潔に書かれていた…
「……まぁ…俺も晴れて自由の身って訳か…」
手紙を畳み直し、考え方も真っ直ぐにしてソファに腰かける。
「ふぅ…どうすっかなぁ…」
急に力が抜け、する事が無くなってしまった…
「時斗ー?居るー?」
突然玄関の方から声がした。
しかし、その声の主は直ぐに解った。
「蛍かー?入れー。」
いつもの調子で会話が進む。
「あ、時斗。おじさん達もう行ったの?」
「あぁ。俺が帰って来た時には、もう居なかった。」
蛍は少し残念そうな顔を見せた…
「で?何の用だ?」
「別に。時斗の事、頼まれてるから…ちょっとね?」
「ったく…何で蛍に頼むかなぁ……。」
「何よー!私じゃ不満?」
膨れっ面をしながら蛍は手を腰に当てた
「不満っつーか…蛍だと襲う気になれないってゆーかー…」
「それは…私に魅力が無いから?」
「いや、その…俺は…」
「バカー!!!」
と一言残し、蛍は走って行った…
「違うのに……」
そう…違う…。
俺は…ただ…。
「違う…追い掛けなくちゃ…」
鍵もしないで家を跳び出て、蛍の行きそうな場所を探す。
「はぁ…はぁ…」
気がつけば、もう夕方…
日も沈み始めていた…
「蛍。」
蛍の姿を見たのは、島で一番高い丘。
「……何しに来たの…?」
この声……機嫌が悪いと出る声…
「帰るぞ。」
「ヤダ。一人で帰れば…」
「………機嫌悪いのはさっきの事か?…アレはなぁ…」
「分かってる。私には魅力が無くて、時斗には寄ってくる女の子が居るって事ぐらい…」
「まぁ、聞けよ。お前に魅力が無いんじゃなくて…大切だから襲えないんだよ。……ったく…言わせんなよなぁ…」
「……ホント?」
「嘘ついてどうする…」
「だって…時斗には、いつも女の子が居て…」
「でも彼女は居ないだろ?蛍が居るからだよ」
夕日も沈み…ここから見える街には明かりが灯り始めていた
「……綺麗だな…蛍…」
「え…あ…街…?今更…何言ってるの?昔から見てるでしょ…?」
「違うっつーの。お前だよ。綺麗になったなぁー…って…。」
蛍は顔を赤くして背を向けた…
「な、何言ってるのよ…」
「思った事を言っただけだよ。」
蛍は男なら誰でも惚れるような表情を浮かべていた…
「……ホラ。帰るぞ」
照れ臭くなって、これ以上踏み込むのは躊躇った…
「…う、うん…」
まだ顔を赤くしたままでいる蛍は恥じらいながら、俺の後ろを歩く。
お互い…照れ臭いのか…会話をしようとは思わなかった……
帰り道…いつも何気無く歩くこの道に…『風景』と言うモノがあることに気付き、足を止める…
「どうしたの…?」
「いや…ここにも風景が会ったんだなぁ…って…」
「……?」
蛍は首を傾げた。
「……なぁ、蛍…。お前は俺の事…どれくらい好きだ…?」
「……答えない。」
「答え無い?」
「正しくは答えられない…だね。だって…どんな事や物とも比較出来ないくらい私は時斗が好きだから。」
「……そっか……」
俺は間違って無かった…
コイツを選んだ俺に狂いは無かった…
だって…今…目の前に居る、この人こそ…守るに値する人…コイツだから守れる…何事からも…。
『蛍…』
『時斗…』
『好きだよ…』
END