書庫(同人)
□伝えられた想い
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世の中…理不尽である。
好きな人が自分を好きになってくれる。
それだけの事なのに、どうやっても填まらないパズルのピースの様…
それが苦しくて切なくて…もう、止めようと思った事もあった…
だけど、止められない。
彼が呼ぶ…彼の声で呼ばれる自分の名前を聞くだけで胸が苦しくて…
「美波?」
「ア、アキ!?」
後ろからいきなり声を掛けられ、心臓が止まる程に驚いた。
「こんな所で何してんの?もう、皆帰っちゃたよ」
放課後の屋上。
私は考え事をする為、わざわざ人の居ない場所を選んだのに…まさか悩みのタネがやって来てしまった。
「べ、別に何だっていいでしょ!」
素直になりたいのに、なれなくてついケンカ口調になってしまう。
「そっか…何かさ、美波が悩んでる様に見えたから…」
その言葉にまた驚いてしまう。
「別に…悩んでなんか…」
「それならいいんだ。少し心配だっただけだから…!それじゃあ、僕は帰るよ」
「心配…してくれたの?」
「え?」
凄く嬉しかった。
どんな事でも、どんな些細な事でも…私の事を考えてくれたことが…
「み、美波!?大丈夫?顔赤いよ!?」
そっと触れられた私の頬。その長くて細い指先が触れた瞬間、身体に電気が走った様な感覚に襲われ、咄嗟に後退りしてしまう。
「だ、大丈夫…!だから…」
やっぱり…彼は気付いて無いのだろう…
私の想い…
「あ、あのさ…アキ…」
「何?」
バカみたいな能天気な笑顔にまた胸を苦しませる…
こんなに辛いなら…いっそ言った方がいいのかも知れない…
「アキは…す、好きな人、とか居るの…?」
言ってから気が付く。
こんな質問、告白と一緒なんじゃないか、って…
そう思った瞬間、耳の先まで顔が熱くなり今すぐにでも逃げ出したかった。
「居るよ?」
好きな人が居る、当たり前の様に言われるとチクチクと胸に何かが突き刺さる。
「あ、でも…好きっていうか…いつの間にか気になってるだけなのかも…」
「それってさ、瑞希?」
彼の顔が緩んだ。
あぁ、やっぱりそうなんだ…私の想いは伝わらない。
「最初はね…姫路さんの事が気になってたんだけど、いつ頃かなぁ…?違う人を気にする様になったんだよね」
「え…?瑞希じゃ…無いの?じゃあ…誰…?」
「ポニーテールが似合ってて、バストも胸も胸囲も女の子らしくなくて、いっつも乱暴なんだけ…背骨が逆に軋んでるー!」
「私だってまだ成長するんだからねー!」
気が付いた時には彼の身体に技をかけ、痛めつけていた。
「痛っただただた!」
「って…え?」
彼の身体を締め付ける力を緩ませ、絡み合った状態で顔を見合う。
「ポニーテールが似合ってて女の子らしく無くても…僕は美波の事、気になってたんだよ」
聞き間違えしてしまった?
でも、今…確かに…
「美波?」
「わからないよ…アキの気持ち…ちゃんと言葉で…」
涙が溢れて止まらない。
拭っても次から次へと涙は頬を伝う。
「美波…」
スルリと彼は絡みから抜け出し、私の前に座る。
何かを覚悟したのか、ずっと私を見つめてくる。
「僕は美波が好き…なんだと思う。だから、ちゃんと自分の気持ちが分かってから…美波に言おうと思ってたんだけどさ…あはは、言っちゃった…」
そう言いながら彼の癖、頬を指先でポリポリと掻いている。
「アキ…」
夢みたいな瞬間…
ずっと、ずっと憧れていたシーンに私は今…
「わ、私も…アキが好き…!瑞希よりも誰よりも!」
彼はニッコリ笑った。
私の大好きな笑顔で…。
そのまま、私達は惹かれあう様にお互いの唇に触れた。
初めて触れる他人の唇、きっと忘れない瞬間…。
「アキ…ずっと、ずっと…傍に居てね…?」
私の大好きな笑顔で彼は頷いた。
それが嬉しくて、何よりも心強かった…。
END