過去過ぎる作品

□after
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「・・・・おはよう」


朝、目覚めると・・隣には嬉しそうに俺の顔を覗き込んでいる杏がいた。


「お、おはよう・・・」


起きたらとなりに杏が居る・・その初めての感覚に戸惑いながら・・上半身を起こす。


「そっか・・・昨日は一緒の布団で寝たんだったな・・・」


昨日の杏の言葉を思い出す・・

『義之・・・隣で寝ても・・いい?』

思わず笑みが零れてしまったのがバレてしまい、杏に頬を抓られてしまう。



「もう・・・。義之、朝ごはんはどうす・・・」


枕元に置いてある、ルームサービスのメニューを手に取った杏は何かに気づいて言葉を止めた。


「朝ごはんはバイキングみたい・・・皆、もう居るかしら・・?」


時計を見ると、朝もいい時間。
俺達は着替えて、食堂へ行くことにした。


食堂の場所はココより一階下にあり、広大な海を眺められる展望レストランが売りであるとパンフレットに書いてあった。




「おはよう、桜内」


食堂へ入り、まず声を聞いたのは優雅にコーヒーを飲んでいる杉並だった。


「義之!こっちだ!」

杉並と同じテーブルに居た渉が大きな声で俺を呼ぶ。


「杏ー!こっちー!」

その隣のテーブルで小恋が杏を呼んでいる。

昨日の気まずさが嘘の様に・・・横目で見た杏は少し嬉しそうに口元が緩んでいた。

お互いの顔を見合わせて小さく頷く。
それぞれ呼ばれたテーブルに座り、談笑していた・・・


「義之!すげーぞココのバイキング!」

朝からテンションが激しい渉が差し出したメニューにはお馴染みなメニューや見たことのない料理名までギッシリ書き込まれていた。


「確かに・・・すごい量だな・・・あそこに取りに行くんだよな・・・?」


料理がたくさん盛り付けられた大皿が三列程並んだ場所がある。


「行こうぜ」


渉に連行される様に大皿の場所へ行く・・・





それから俺達は朝食を取り、チェックアウトの時間が迫ってきたため、部屋に戻り荷物を纏めることにした。



「って言っても・・・何にも散らかしちゃいないんだけどな・・・」


荷物を纏め終わり、後は杏の片づけを待っていた。
その間、ベランダに出て夏らしい日差しを感じていた。


「なぁ・・・杏、思ったんだけどさ・・・」


「何?」


杏は俺の方へ向きもせず、片付ける手も止めず返事をする。


「俺達・・・付き合ってんだよな・・・?実感、無いな・・」


「・・・・キスが欲しいなら素直に言えばいいのに・・・」


「そ、そんな事言ってねぇだろ?」


いつもの杏に戻っていた。

こんな会話が友達からの一線を越えてからも出来るなんて・・・そう思うと嬉しくなってくる。


「じゃあ、いらないの・・?」


「う・・・っ・・・それは・・・」


杏は小さく笑い俺の所まで来る。


「心配しなくても、私は義之だけのモノよ・・・」



そう言って小さな唇が俺の唇と触れた・・・。



小さく洩れる吐息が官能的になる。
杏の事だからワザとかも知れない・・・。


「・・・ったく」


杏の準備が終わったらしく、鞄を肩に担いだ。

俺達は一晩世話になった部屋と、この広大な景色に名残惜しさを感じながら・・・部屋を後にした・・・。


ロビーまで降りると、既に皆集まっており、外には送迎用のバスも停まっていた。


「うむ、皆揃ったようだな。では行くとしよう」


杉並が全員のチェックアウトしておいてくれたみたいだ。
そのまま、皆バスに乗り込む。行きとほぼ同じ配置で座り・・・。


「なぁ・・・義之・・昨日、杏と大丈夫だったか・・・?」


小声で問いかける渉は前の女性軍を気にしていた・・。


「まぁ、なんとかな。そういうお前は・・・?」


「・・・まぁ、なるようになったさ・・・」



二人で女性陣を見て小さく溜息を吐いた・・・。



「青春だなぁ・・・!」



その声に反応した女性陣はモチロンこちらを向く・・・。

俺達は大声で叫んだ杉並の口を渉と塞ぎにかかる。


「お前、声でかいっ!」


「杉並っ!」


「はっはっはー!」




こんなバカをやっていられるのは・・・いつまでなんだろうか・・・?

ふとそんな事を考え、杏を見つめる・・・。

俺の視線に気づいた杏は小さく笑い口を動かす。


もちろん、声は出してないから聞こえない・・・。


それでも・・俺には分かったその言葉・・・。


『好き』



その恋は愛に変わるのか・・・。


俺達はどこまで行くのか・・・。


わからないけれど・・・行ってみよう・・行ける所まで・・・


この見上げる空が青い限り・・・

海が広いように・・・答えだって・・・大きいハズだから・・・・。








「そういえば・・・板橋よ。」


「なんだー、杉並?」


「宿題には取り組めたのか・・・?」


「・・・・・あ」


この時の渉の顔は一生忘れないであろう・・・。




fin・・・・・・
 

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