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□桜色の季節
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「先輩……好きです!」

桜の花弁が風に舞い…
静寂に包まれる夜の帳…

その静寂を掻き割く様に発せられた彼女の言葉…
一つ年下の後輩が目の前に立っている。

彼女の顔を赤らみつつも決して俯かず俺を見つめるその瞳は真剣だった…。

「お、俺…」

彼女の気持ちに答えようとした時だった…

突然視界が揺るぎ脳が振るえる感覚と共に俺は自分の部屋の天井を見ていた。
「……夢…ですか?」

誰に対するモノでも無い問いかけは…まだ脳がフル回転していない証拠。
まだダルい身体を起こしベッドに腰掛ける…

「あんな夢見ちゃったら…まともに百合花ちゃんの顔、見れねぇよ…」

百合花ちゃんと言うのは夢に出てきた後輩の事。
名字は確か星乃。

俺が部長を勤めるトランプクラブ。
そこの唯一の部員が百合花ちゃんなのである。

「…そっか…今日は入学式か…」

三年に取ってはあんまり関係の無い入学式だが、一応行って見る事にしよう。

壁に掛けてある制服に袖を通し、鞄片手に部屋を出る。

既に両親は仕事に行ったみたく、家の中はとても静かだった。

リビングに掛けてある時計の針はまだ余裕な時間を示していた、

「コーヒーでも飲むか…」
まだ少し眠い目を擦りながらインスタントコーヒーを淹れる。

砂糖、ミルクは入れずにブラックで飲む。
コーヒーの苦味が口一杯に広がると同時に少し目が覚めた気がする


「んー!そろそろ出るか」

軽く伸びをするとパキパキと骨が鳴った。
財布と携帯をポケットに入れ、鞄を手に取り家を出る。

玄関の扉を開けた時…もう暖かくなり始めた風が吹き抜ける。
どこからか桜の花弁も舞っていた。

「春、かぁ…」

いつもと変わらない通学路には初めて見る同じ学校の生徒もチラホラ見えた。
きっと新入生だろう…、
俺の通う学校には大きな桜の木がある。
俺には桜の種類までは分からないけれど…時間を忘れて見とれてしまうほど美しく気高く…そして切なく咲き誇るそんな桜が俺は大好きだ。

今日もそんな桜が見えてきた……

周りには朝の挨拶を交わす声で溢れかえる。

その声に紛れ後ろから聞き慣れた先輩と呼ぶ声。

後ろを振り返ると…

「先輩っ、おはようございます!」

今朝夢に見た彼女が走り寄ってくる。

「あ、あぁ…おはよう。」

自分でも明らかに動揺しているのが分かる。
まだ目も合わせて無いのだ。

「先輩はこれから教室行きますか?」

「あぁ、多分誰も居ないと思うけど…一応な…」

昇降口で靴を履き替え百合花と一緒に階段を昇る……二年生の階を通り過ぎ、三年生の教室がある階まで百合花は付いてきた。

「百合花ちゃん…教室行かなくていいの?」

「はい。大丈夫です。教室に一人で居る先輩が心配ですから。」

そう即答された。
百合花ちゃんが頑固なのは知っている、だから無理に止めても意味がない。
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