書庫 分室

□accident LOVE
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「きゃっ!」

「あぶねえ…っ」

目の前で女性が躓き体勢を崩し、俺は咄嗟に彼女の身体を支えた。

彼女の身体は柔らかく黒く靡いた髪からは初めて感じた香りがした。

「大丈夫…ですか?」

声に反応する様にお互いは見つめ合う……

「………っ」

彼女は何も喋らず、ただ俺を真っ直ぐ見ている。
曇りの無いこの黒い瞳を見ていると思わず虜になってしまう程深い色をしていた。

次第に彼女の頬が紅潮するのが分かった。

「あ、あの……」

「え…あっ、その…ありがとうございます。」

我に帰った様に彼女は喋り始めた。

「いえ、怪我が無くて良かったです。それじゃ俺はこれで…」

「あ、あの!」

立ち去ろうとしていた俺を引き止め、振り向くと…
胸に手を当て下を向きながら…

「あの…この辺の人ですか?」

「ま、まぁ…」

彼女は一枚の紙を俺に差し出す。

「この場所わかりますか?」

紙を受け取り見てみると…簡略な地図と少しだけ文章が書かれていた。

「えっと…」

現在位置とこの周辺を頭に浮かべ、地図と当てはめる。
その場所が頭に浮かんだ…。

「そこの角を曲がって少し行ったビルですね。
一緒に行きますよ。俺もその道行きますから。」

「ありがとう、ございます…!」

来た道を少し戻り最初の曲がり角を曲がる。
すぐに目的地は見えた。

「あの…ホントにありがとうございました。」

「いえいえ…」

無言で彼女は一枚の紙を差し出した。

「名刺…?」

「絶対、連絡下さい!お礼したいですから。」

それだけを告げて彼女はビルの中へ入ってしまった。
俺は手元の名刺に目を落とした…

「…川添、綾子……。」

その名刺にはそう書かれ、メールアドレスと電話番号が書いてあった。

「…なんだろう…このドキドキ…」

もう一度上に聳えるビルを見上げ、俺はその場を後にした。
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