書庫 分室

□真っ赤な愛
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「……いがぁ!」

身体の節々に走る痛みで目を覚ます。
床で寝てしまったのが原因か…身体の関節が痛い。
外は真っ暗で部屋も真っ暗だった。
大分寝ていたみたいだ…

「まだ帰って来て無いのか…」

時計を見れば恋歌が帰って来ていてもおかしくない時間だった。

「…電気」

立ち上がろうと足に力を入れても上手く立てず…床に崩れ落ちてしまう…

「あれ…」


頭が痛い…
鼓動が鮮明に聞こえる程高鳴っている。
全身がダルい…

「寝起きだから…だよなぁ。」

そのまま横になる事にした俺の身体にはもう力が入らなかった…




治らない…
そればかりか…さっきから咳が止まらず、喉が痛い。
「…くそ。」

月明かりに照らされ黒光りするピアノの足下に落ちている五線譜だけ書かれた紙を手繰り寄せ見つめる…

「……」

瞳を閉じれば浮かぶ歌恋の姿…
今まで見てきた色んな歌恋…

「歌恋……グッ!」

身体の中から口に大量の水分が流れ出た。

「ガハッ…ッハ…」

その鮮血が手を口を床を紙を赤く染める…

手の平に溜まった血を見つめ確信した…


『もう…時間が無い』


手の平の血を指に付け、紙に滲ませる…

やがて血は音符となる。
音符が音になる事は無いのかも知れないけれど…

最後に歌恋に…

歌恋の為に曲を作りたい。


その一心で指を走らせる。もう持たない身体に鞭打って……






「ゴメン…!遅くなって…」

もう朝日も登り始めた時間に私は帰ってきた…

部屋は静かに鳥の鳴き声が聞こえる…

窓から差し込む光に照らされた…世間離れした光景。

「詩音!!」

赤く染められた彼に駆け寄る。
顔も服も手も血塗られ…
見ているだけで吐き気が込み上げる…


「し、詩音……」

呼んでも返事は無い…

「どうして…こんな…詩音……っ!」


「………か、れ…ん…」

聞き落としそうなまでに小さく呼ばれた自分の名前。彼の眼は薄く開いていた…
「詩音…!」

「か、れんの…ため…に、きょくを…つくっ、た…んだ…」

彼の指差す方向には三枚の血で書かれたスコアがあった。

「BLOODY LOVE…?真っ赤な愛…?」

最上段に殴り書きされたその文字は鬼気迫る感じがした…


「きづい、たん…だ…おれの…おとは…か、れんを…おもって…るときに、かんせ…いする」

「喋らないで!」


強く抱き締めた…

「詩音が死んだら私…!私……!」

「か、れん…ごめ、ん……あいし…てる…よ」

彼の眼は閉じて行く…
止める手だても無いまま…彼は……

「詩音……!」

涙が溢れる…
止まらない…
詩音……



血のスコアを握りしめピアノの前に座る…

「私が…弾くよ…詩音の最後の曲…」


スコア通りに鍵盤を叩き始める…

そのメロディは温かくて優しい…でもどこか荒々しくて臆病なメロディ…

まるで詩音そのものだ…


「涙が邪魔でスコアが…見えないよ…」

ボヤけ滲む視界に色んな詩音が写し出される…

胸が苦しい…
辛いよ…

詩音が居ない世界なら…


「……詩音、すぐそっちに行くね…」







詩音の音楽家生命最後の曲「BLOODY LOVE」

詩音の死より二年後、曲の存在が明らかになり世の人々の耳に残ったという…。


END
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