書庫 分室

□ナツノヨノユメ
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「何か無いかなぁ…?」

冷蔵庫を漁り、奥の方から缶コーラを取り出した。

「ラッキー、最後の一本みっけ」

キンキンに冷えた缶を額に当てながらベランダに出た。

夜風に吹かれ、空を見上げると夏の大三角が綺麗に見える。

「告白か…初めてされたなぁ…」

さっきの突然の告白。
高城は俺のどこがいいのかわからない…


そんな事を頭の中でループさせながらコーラに口を付ける。

心地よい炭酸が口の中で弾け、喉の奥を熱くする。

「…そういえば俺…高城の事、あんまりよく知らないな…」


告白されたからなのか分からないけど、気付けば考える事全部が高城の事。


「…待てよ?何であの時…俺は…」


自分で言うのもどうかと思うが、俺は独占欲が強く、俺の物は俺の物と心の底から思っていた。

お菓子の分け合いはもちろん、ゲームやおもちゃ、本だって誰にも貸したく無い。

なのに、何で高城にだけ図鑑を?


もしかしたら俺は…



子供の頃に感じたあの気持ち、今の俺にはすぐ分かる。


「好き、だったんだ…」


そう気付くと、俺は高城の事を思い浮かべる。

知らない事は沢山ある。
これから知ればいい。

とりあえず今は…


「好きだって言わなきゃ…」

立ち上がりクルッと後ろを向く。


「うわっ!」


まったく気付かなかった、高城が俺の後ろで泣いているなんて…


「巧くん…今の…」


「き、聞いてたのか…?」

高城は少し震えながら頷いた。


「はぁ…とりあえず高城、座れ」


座りなおした俺の斜め向かいに座らせる。


「高城、俺な…今、気付いたんだけど、昔からお前の事、好きだったみたいだ」

「誰にも貸したくない図鑑を高城に貸したのは、どこかやっぱ好きだったんだろうな…」


二人は言葉を失った。

何も言えなかったんじゃ無い、何も言わなくても良かったんだ。

その証拠に、高城はそっと俺の手を握った。


「ありがとう…」


ボソッと言ったその一言が、俺の胸のどこかにコトンと音を立てて落ちた。


「そろそろ、部屋に戻るか…冷えたろ?」


小さく頷いた高城の手を引っ張り、二人は部屋に戻った。


「………」


「………」


部屋に戻り、二人は立ち尽くしたまま気まずさに襲われていた。


お互いの気持ちを伝えあった後に二人同じ部屋…


「…ねぇ、巧くん…」


「は、はい!?」


静寂を切り裂く様に聞こえた高城の声。

「一緒に寝てもいいかな?」


その瞬間、背中に冷や汗が流れた。


「ダメ…かな?」


まるで小動物の様な眼差しで見つめる高城の提案を無下に断る事は出来なくて、俺は機械的に頷いた。


「……えへへ…」


可愛らしく横で笑う高城。
何とも不思議な感覚だ。
いつも寝ている慣れたベッドがまるで別物の様に変わっている。
高城が横で寝ているだけでこんなにも景色が変わるのかと心底驚いている。


「なぁ、高城…一つ聞いていいかな?」


不思議そうに頷いた高城。

「俺のどこがそんなに好きになったんだ?」


「そうだね…私は巧くんの事、カッコいいと思うし、昔から優しいからかな…」

「昔から…?」


高城は布団の中で俺の手を握り、深く目を瞑り言葉を続けた。


「巧くんは覚えて無いかも知れないけど…私ね、小学校の時に虐められてる所を巧くんに助けて貰った事があるんだよ…?」


そう、言われてみれば確かにそんな事があった気がする…


「それだけじゃない…何気ない些細な事でも巧くんは当たり前の様に優しくしてくれた…」


「…そんな大それた事した覚えは無いんだけどなぁ…」


「ほら、当たり前だと思ってる…!そういう所に惹かれてんだと思う…」


自分では腑に落ちないが、高城がそう感じて俺を好きになってくれたのなら…


悪い気はしない…


「あ、あのさ…今度から、未歩って読んでいいかな?」


少し驚いた後、嬉しそうに微笑んだ彼女。


俺はふと思った。

多分、俺は未歩のこの笑顔に惹かれたんじゃないか…って…


握った手を離さない様に強く固く握り締め、二人は明日から始まる新しい二人の関係に期待と不安を抱いて夢に落ちていった……


END
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