書庫 分室

□真っ赤な愛
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「………っ!」


手元にあった目覚まし時計を壁に投げつける。
鈍い音を立てて時計は壊れ落ちた

「わかってんだよ…っ!」
五線譜しか書かれていない紙の束を投げ捨てソファに身体を預ける…

『君の音はもうダメだ。 全く…全盛期はアレ程素晴らしかったのに……一体何があったのかね…?』

さっき言われた言葉が頭の中をループする。

「……くそっ…」

頭が痛くなる…


俺の名前は蓮間 詩音(はすま しおん)昔は業界では名の知れたピアニストだった……でも、今は堕ちた三流の……ピアノが弾ける人になってしまった…。
簡単に言えば長いスランプ…思い通りに音が出せず、上手く指が動かせなくなってしまった。

それでも…未だにピアノに関わっているのはやっぱり……ピアノが好きだから…
それと、もう一つ。

俺の音色が好きだって言ってくれる彼女が居る事…

「ただいまー詩音。」

スチール製の玄関ドアが開き、黒く艶やかな長い髪を踊らせながら彼女は帰ってきた……

「おかえり……歌恋」

近所のスーパーの見慣れたロゴが印刷されている袋を片手に靴を脱ぎ始めた彼女は白屋 歌恋(はくや かれん)一応…俺の彼女だ。

「……また上手く行かないんだね…」


散らばった紙と壊れた時計を見て寂しそうに呟く…

「……あぁ。」

「す、すぐに晩御飯にするね?」

買ってきた食材を並べ調理に取りかかる。
包丁が具材を切り刻む単調な音が俺は好きだ…
鍋の中身が煮えたぎる音も好き…
懐かしいメロディを鼻歌で鳴らす彼女も大好きだ。

こういう…音が作りたい…懐かしくて優しくて柔らかい様な…音。
手元に落ちた五線譜だけの紙に…ペンを走らせる…
テンポと音階を…何より感覚を大事に……
気が付けば三枚の紙はスコアへと変わっていた。

一呼吸付こうと息を吸い込むと…台所から立ち込める香ばしく少し甘い匂いがした。

「カレー…?」

台所へ歩み、歌恋の隣に立つ。

「あ、一段落付いた?」

歌恋の頭をポンポンと叩く。 少し膨れた顔をしてい
歌恋の悩みは背が小さい事。俺は可愛いって思ってるんだけど本人は大人のお姉さんみたいになりたいと思ってるみたいだ。

並ぶと俺の肩まで身長が無い小さな身体はやはり愛しく可愛い……

「あぁ、一段落付いたよ」

「じゃあすぐにご飯にするね」

コンロの火を止め皿にご飯を盛る。
その上にカレーを流し机に置く、机には既に色鮮やかなサラダが置かれていた。
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