書庫 分室

□ムクワレナイコイ
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「ダメ…だぞ。」

怖かった…この時だけは…血の気が引いた様に…

「……。」

俺の彼女…愛弓は黙っていた。

黙ってる事に怖さを感じたんじゃない…
彼女の隣に…悪友が居る事に怖さを感じたんだ。

「悪いな、匠。」

悪友…裕人は俺の名前を呟き彼女の腕を掴み走り出した。

「愛弓…っ!」

俺が走り出した時には目の前の信号は赤へと色を交えていた。


夜の帳の中で俺は一人…佇んでいた…
後悔や悔しさ、不甲斐なさや怒り…
その全てを噛み締める様に……







「正直な話し…俺を利用しただろ?」


裕人は立ち止まり愛弓を見る。

「……」

しかし愛弓は黙り込んでいた。

「…俺が愛弓を連れて逃げれば匠が追いかけて来てくれるって……そう考えてたんだろ?」


ジリジリと問い詰める…愛弓の背には既に硬い壁。どこにも逃げられない…

「…裕人……くん?」

「俺の気持ち、分かってるんだろ? 例え、冗談でも例え匠を試してたんだとしても…俺は本気になる。」
壁に手を付き愛弓に顔を近づける。

「ひ、裕人…くん。」

震える声で名前を呼ぶ…
震える身体が目の前に…
涙で滲むその瞳…
抱きしめたい…
今すぐに…

でも……


「…悪ぃ。」

壁から手を離し、愛弓に背を向ける。

「…ごめ、んなさい……」

「行くのか?アイツの所。」

無言で頷く愛弓。

「…そっか。早く、行けよ。待ってるハズだ。」


「…うんっ。」

涙を拭い愛弓は走り出した。


「……ったく、女を泣かせるなよ…匠。
大事なら…離すなよ。
ずっと繋いでろ…」

自分に言い聞かせる様に呟いた。

それでも彼女の事が諦められない自分が居る……。







「ハァ…ハァ…ハァ…」

喉が痛い。
頭が痛い。
足が痛い。

彼を見た時、心が痛かった…

公園のベンチで頭を抱える様にして座っている…
私のせいで…

「匠…っ!」

私の声にビクッと反応し顔を上げる。

「…愛弓…」

何も考えられなかった…
ただ彼の元へ行って一言、『ごめんなさい』って言いたいだけ…

でも足が動かない…
私の足は…震えるだけ…

「…あ…」

涙が溢れていた…

止まらない…

彼を見ると、難しい顔をして、こちらに歩いてくる。
「…た、匠……」

彼は私の身体を抱き寄せた。

「…愛弓…ゴメンな…」

何で彼が謝るのか分からなかった…


「私も…ゴメンなさい…」

彼の体温や彼の匂い…
私が求めていたのはコレだった…
落ち着く…
安心する…



「…匠…大好きだよ。」

「あぁ、俺も愛弓の事…大好きだ」

私も彼を抱き締めた…









「……ったく、いくら夜だからって公園で抱き合うなよ。」

口にくわえていたタバコに火を付ける。

白い煙が宙を舞いやがて散開していく…

俺の気持ちもいつかは変わるのかな…?そんな事を思いながら消え行く煙を見上げていた。




END

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