書庫 分室

□ナツノヨノユメ
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遠くに聞こえる蝉時雨。

近くに聞こえる風鈴の音。
手元に冷える西瓜。


「あぁ、夏…なんだな…」

そう気付いたのは夏休みも折り返しを迎えた頃だった。

俺は誰も居ない家のベランダで一人優雅に夏の夜を満喫していた。


「あー…」

今年の夏は何の気まぐれか、既に宿題と言う煩わしい物を片付けてしまい、毎日毎日ダラダラしっ放し。

友達は皆揃って旅行や帰省、ウチの家族も俺の知らない間に田舎に帰省してしまった。

そう考えると夏休みの半分を1人で過ごしてるんだなぁーと思ってしまう。


「誰か暇な奴居ないのかよ…」

携帯のアドレス帳を無意味に眺めていると、不意討ちに軽快な音楽とバイブレーションが鳴り響き、思わず携帯を落としてしまった。
「ビックリしたぁ…」

落とした携帯を拾い上げ、通話ボタンを押し耳に当てる。

「もしもし…?」


『あ、えっと…』


それはどこかで聞き覚えのある声だった。

『巧…くんの携帯で合ってる?』


「あぁ、うん。合ってるよ。……もしかして高城?」

「うん!そうだよ!」


声の主は同じクラスの女の子、高城未歩(たかしろ みほ)だった。

あんまり目立たない女の子で話した事は少ないけど、小学校から高校までずっと同じでクラスが一緒の事も沢山ある。

しかし、あんまり接点の無い彼女が、なぜ俺に電話を…?

『よく、声だけでわかったね?』

「勘だよ勘。それより、何か用事か?…あれ?そういえば俺、携帯の番号教えたっけ?」


『あぁ、それは…』


彼女の話を要約すると、

夏休みが暇すぎて友達皆に遊ぼうと誘っていたが、誰も都合が合わず、俺と高城、共通の友達が俺なら暇だと情報をリークし、ついでに番号とアドレスを教えて貰ったそうで、今に至る。

『と、言う訳で…巧くん…暇?』


「暇。暇すぎて死ぬ」


『死んじゃダメだよー!
今、家?』


「ん?うん。家に居るよ」

暫く何かを考えていた高城は何かを決めたみたいに、うん!と意気込んだ。


『今から遊びに行っていい?』


時計に目をやると、よい子が寝る時間を過ぎていた。
しかし、今日の俺はフリーダム。

この暇が潰せるなら…と、断る理由も無い。


「別にいいけど、家の場所わかる?」

『うん、知ってるよー!
じゃあ、もう少ししたら行くね』

そう言って電話は切れた。

なぜ、俺の家の場所知ってるんだろうと疑問に思ったけれど答えはすぐに出た。
そういえば小学校が一緒なんだから校区が一緒なのは当たり前…


「っと、片付けなきゃ…」

ベランダに持ってきたコップや西瓜の残骸等を持って家に入る。


台所で、いくつかのお菓子を取出し机に置く。


後は待つだけ。


「そういえば…最後に女の子がウチに来るのっていつ振りなんだろう…」

記憶を遡り、思い出す。


「あれ?最後にウチに来たのって…高城?」


過去に一度、高城がウチに来た事があった。

あれは確か…


ピンポーン…


思い出そうとした時、タイミング良く呼び鈴が鳴り、玄関に向かう。


「はーい」

鍵を開けドアを開けると、そこには予想もしてなかった いい意味で裏切られた高城の姿があった。


「ごめんね、急に…お邪魔しまーす」


普段の彼女からは予想も出来ないファッションに髪型…表情までもが別人の様に違った。


「どうしたの?」


「い、いや…なんか、今日の高城…可愛いから…」


お互いにボッと顔を赤くし、俯いてしまう。


「あ、えと…入って!」


沈黙に耐え切れずにリビングに招いた。


「あれ?巧くんだけ?」


「うん、皆して田舎に帰省しちゃ…った…から…?」

改めて良く考えると、俺は誰も居ない自宅に女の子を一人招き入れてしまった?それに気付くともう高城を直視出来なかった。


「どうしたの?」


「い、いや!何でもない!

頭に疑問符を浮かべたままソファーにポンと座り込む高城。

その机を挟んだ反対に俺は陣を取り、テレビを付ける。

「……あ、」

二人はテレビの花火中継に釘付けになってしまった。
「綺麗…」

ボソッと呟いた高城の横顔はまるで夢見る少女の様に愛らしかった。


「……しよっか…花火…」

「え?」

携帯と財布を手に持ち、俺は立ち上がる。

「買ってくるよ、花火」


「い、いいよ…そんなつもりじゃあ…」


「俺は高城が楽しめるなら、それでいいんだ。悪いけど留守番、頼むな」


そう言って俺は家を出た。
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